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岡山地方裁判所 平成9年(ワ)910号 判決

原告

多賀辰野

被告

岡田加代子

ほか一名

反訴原告

岡田加代子

反訴被告

多賀辰野

主文

一  被告(反訴原告)岡田加代子と被告岡田健児は、原告(反訴被告)に対し、各自金六九一万七五〇八円及びこれに対する平成七年一〇月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告(反訴被告)のその余の請求を棄却する。

三  反訴原告(被告)岡田加代子の請求を棄却する。

四  訴訟費用は本訴反訴を通じてこれを五分し、その四を原告(反訴被告)の負担とし、その余を被告(反訴原告)岡田加代子と被告岡田健児の連帯負担とする。

五  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  本訴

被告(反訴原告)岡田加代子と被告岡田健児は、原告(反訴被告)に対し、各自金四四〇〇万円及びこれに対する平成七年一〇月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  反訴

反訴被告(原告)は、反訴原告(被告)岡田加代子に対し、金二〇〇万円及びこれに対する平成七年一〇月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、自動車と自動二輪車との間における交通事故の事案である。原告(反訴被告、以下「原告」という)は、本訴請求において、被告(反訴原告)岡田加代子(以下「被告岡田加代子」という)に対しては不法行為に基づき、被告岡田健児に対しては自賠法三条に基づきそれぞれ損害賠償を請求している。被告岡田加代子は、反訴請求において、不法行為ないし自賠法三条に基づく損害賠償を請求している。

一  争いない事実

1  本件交通事故

(一) 日時 平成七年一〇月九日午後六時一七分頃

(二) 場所 岡山県児島郡灘崎町西紅陽台二丁目五八番地の四六四先路上

(三) 原告車両 自動二輪車(灘崎町は七五一)

運転者・所有者 原告

(四) 被告車両 普通乗用自動車(岡山三一一一む一九四)

運転者 被告岡田加代子

所有者 被告岡田健児

(五) 態様 西進中の原告車両が交差点に進入したところ、北進中の被告車両と交差点内で出合い頭に衝突した。事故現場の状況は別紙交通事故現場見取図記載のとおりである。

2(一)  被告岡田加代子は、被告車両を運転中に前方不注視及び安全運転義務違反の過失があったから、不法行為責任を負う。被告岡田健児は、被告車両の所有者として自賠法三条の責任を負う。

(二)  原告は、原告車両を運転中に左右安全確認義務違反の過失があったから、不法行為責任を負い、また、原告車両の所有者として自賠法三条の責任を負う。

3  原告は、本件交通事故により負傷し、後遺障害が残存した。

二  争点

1  原告の損害

(一) 原告の主張

原告は、本件交通事故により左下腿開放性骨折、頭部打撲、顔面打撲捻挫、頭蓋底骨折、脳挫傷の傷害を負い、平成七年一〇月九日から同年一二月一二日までの六五日間岡山協立病院、平成七年一二月一三日から平成八年四月二二日までの一三一日間山陽病院、平成八年五月二一日から同年七月一九日までの六〇日間岡山協立病院において、それぞれ入院して治療を受け、その合計期間は二五六日間になる。

原告には、左足関節運動障害、右肩痛、痴呆症により後遺障害別等級表二級三号に該当する後遺障害が残り、労働能力を一〇〇パーセント喪失し、従前行っていた乳製品販売業を廃業した。

(1) 入院雑費 三五万八〇〇〇円

入院期間二五六日間にわたり日額一四〇〇円の諸雑費を要した。

(2) 医療に関するその他の費用 一一四六万六〇〇〇円 (一〇〇〇円未満切捨て)

(内訳)

〈1〉 さくら苑リハビリセンター療養費 一八二万八九三五円

〈2〉 居住家屋増築費(通常の部屋では生活できなくなったため、床が平坦で手摺付の風呂や便所のある障害者用の部屋を別棟で増築するのに要した費用) 九三八万八五九六円

〈3〉 介護用ベッド代 二四万九一二〇円

(3) 休業損害 五九八万二〇〇〇円 (一〇〇〇円未満切捨て)

〈1〉 原告の職業 乳製品販売業経営

〈2〉 休業期間 平成七年一〇月九日から症状固定日である平成九年七月二三日までの六五四日間(一年九箇月一五日間)

〈3〉 本件交通事故前の月平均所得 二七万八二六四円

但し、粗収入三三万一七六四円から経費五万三五〇〇円を控除した額

〈4〉 計算式

二七万八二六四(円)×(二一+一五÷三〇)月=五九八万二六七六(円)

(4) 逸失利益 一六五〇万二〇〇〇円 (一〇〇〇円未満切捨て)

〈1〉 労働能力喪失の期間 五・八二年(平成九年七月二四日から平成一五年五月一八日まで)

右期間に相当するライプニッツ係数 四・九四二

〈2〉 事故前の年収 三三三万九一六八円

粗収入三九八万一一六八円から経費六四万二〇〇〇円を控除した額

〈3〉 計算式

三三三万九一六八(円)×四・九四二=一六五〇万二一六八(円)

(5) 慰藉料 一四八〇万円

被告らは、故意に虚偽の事故状況報告書を作成したり、原告の請求に対して対抗措置とも思えるような反訴を提起しており、これらにより円満に示談できなかったことも慰藉料の算定において斟酌されるべきである。

(内訳)

〈1〉 傷害慰藉料 二八〇万円

〈2〉 後遺症慰謝料 一二〇〇万円

(6) 弁護士費用 四九一万円

ただし、右(1)ないし(5)の内金四〇〇〇万円及び(6)の内金四〇〇万円を請求する。

(二) 被告らの認否反論

いずれも否認ないし争い、特に以下の点を反論する。

当初の原告の傷病名は左下腿開放性骨折であり、事故後二箇月余り経過した後に老年性痴呆により治療を受けたものであるから、本件交通事故と痴呆症状との因果関係は争う。症状固定日は原告の主張する日よりも早いと考えられ、症状固定日以降の入院雑費及び治療費は否定されるべきであり、入院雑費は一日一〇〇〇円が相当である。家屋改造費は、多くとも数十万円にとどまるべきである。

2  被告岡田加代子の損害

(一) 被告岡田加代子の主張

被告岡田加代子は、本件交通事故により、頸部及び左肩捻挫の傷害を負い、平成七年一〇月一一日から平成八年四月二六日までの一九九日間松田病院に通院して治療を受けた(実通院日数一一八日)。

(1) 治療費等 三万九四二〇円

(2) 通院費 九万八八六〇円

(3) 休業損害 一〇万六二六五円

但し、九万五三六二円の休業損害と一万〇九〇三円の賞与減金の合計額

(4) 通院等慰藉料 三〇〇万円

但し、通院治療及び本件交通事故の影響により平成八年二月一〇日に中絶手術を受けたことによる精神的苦痛を慰謝するのに相当な金額

(5) 弁護士費用 三〇万円

(6) 損害の填補 一〇〇万円

右(1)ないし(5)の合計額から(6)を控除した二五四万四五四五円の内金として二〇〇万円を請求する。

(二) 原告の認否

いずれも知らない。

3  過失相殺

(一) 被告らの主張

被告車両の走行車線は南北に伸びる交通量の多い上下各三車線の国道三〇号線であり、制限時速は五〇キロメートルである。原告車両の走行車線は東西に伸びる細い町道である。事故現場は信号機の設置された交差点であり、終日、原告車両の走行車線は赤点滅を示し、交差点に進入する前に一時停止の規制が施されていたのに対し、被告車両の走行車線は黄点滅を示しており、一時停止の義務はなかった。原告車両は無灯火であった上に一時停止を怠り、左右の安全確認をせずに交差点に進入した。

以上によれば、原告と被告らの過失割合は八対二が妥当である。

(二) 原告の主張

本件事故現場の状況は被告らの主張のとおりであるが、被告車両においても交差点の対面信号が黄点滅だったのだから徐行義務があったのに、漫然と時速五〇キロメートルで前方不注視のまま事故現場の交差点に進入し、衝突直前に制動措置も講じなかった。これに対し、原告車両は前照灯を点灯させ、交差点の直前で一時停止し、被告車両よりも先に交差点内に進入した。

以上によれば、原告と被告らの過失割合は三対七が妥当である。

第三争点に対する判断

一  原告の損害

1  証拠(甲二ないし六、一六、乙一三、一四、鑑定結果、証人佐々木信一)によれば、以下の事実が認められる。

(一) 原告は、大正九年一〇月三〇日生まれの独居女性であり、本件交通事故時まで多賀商店の名称による牛乳販売店を経営していたほかクリーニング及び宅急便の取次業務を行っていた。原告には事故以前に痴呆症状はみられなかった。

(二)(1) 原告は、本件交通事故により、総合病院岡山協立病院に搬送され、左下腿開放性骨折、頭部打撲、顔面打撲挫創、頭蓋底骨折、脳挫傷の診断を受け、平成七年一〇月九日から同年一二月一二日までの六五日間入院して、緊急手術を受けた後、整形外科で左下腿開放性骨折の治療を受けたほか、不穏状態がみられたため精神科で治療を受けた。搬送当時の意識レベルはJapan coma scale(JCS)で3(覚醒しているが自分の名前、生年月日が言えないレベル)だった。

(2) その後、原告の異常行動が多くなり、一般病棟における対応が困難になったため、平成七年一二月一二日山陽病院に通院し、翌一三日から平成八年四月二二日までの一三二日間同病院に入院して治療を受け、夜間せん妄及び老年期痴呆の診断を受けた。原告は、入院時、食事、排便及び排泄は辛うじて自分ででき、聴力及び視力に問題はなく、話の了解、意志の表示は正常、着衣は普通にできると評価された。しかし、夜間の異常行動は続き、平成八年一月六日に行った改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HSD-R)は三〇点中一一点(二〇点以下で痴呆を疑う)であり、見当識の障害と記名力の障害を呈していた。その後、平成八年一月末には不穏状態が改善し、病棟内で他の患者の世話をすることができるまでに回復した。

(3) 原告は、山陽病院退院後、藤崎園(老健施設)に入所していたが、平成八年五月二〇日頃から発赤、疼痛、腫脹が出現し、骨髄炎が疑われたため、翌二一日から同年七月一九日までの六〇日間総合病院岡山協立病院に入院して治療を受けた。したがって、入院期間は計二五七日間である。

(4) 原告は、平成九年七月二三日、総合病院岡山協立病院精神科を受診し、HDS-Rは一八点で軽度の痴呆があると診断され、頭部CTで軽度の脳萎縮が指摘された。平成一一年一月九日に行った検査によれば、HDS-Rは二〇点であり、知能検査として行ったWAIS-Rでは年齢平均レベルの知能指数と評価された。その他、視覚記銘力、構成能力の検査の結果にも問題はみられなかったが、対語記銘力の低下があり、抽象的思考において著しい困難がみられた。

(三) 原告は、平成九年七月二三日に症状が固定し、現在においては、近距離の歩行、食事、風呂、用便、肌着等の洗濯は一人ですることが可能であるが、左下腿開放性骨折の後遺症のため立ち上がる動作が困難であり、また、知的レベルとしては、他人との会話や新聞を読むことも可能であるが、記銘力障害が強いため就労は不可能であって日常生活にも制限があり、炊事等の家事を行うことは危険であって随時介護を要する状態にある。

(四) 以上によれば、原告は、日常生活に必要な最低限度の行為は一人で行うことが可能であるものの、労務に服することが不可能であるばかりか、随時介護を要する状態にあるから、後遺障害別等級表二級三号に匹敵する後遺障害を負い、労働能力を一〇〇パーセント喪失したものというべきである。

これに対し、前掲各証拠(甲四、六)中には原告の痴呆症状が老年性のものである旨の記載がみられるが、鑑定の結果に照らして採用することはできない。

2  入院雑費 三五万八四〇〇円

右認定事実によれば、入院期間二五七日の全てにつき本件交通事故と相当因果関係があると認められ、一日あたりの入院雑費は一四〇〇円が相当である。

計算式 一四〇〇(円)×二五七(日)=三五万九八〇〇(円)

(但し、主張の範囲内に制限する)

3  医療に関するその他の費用 九三万八八五九円

(一) さくら苑リハビリセンター療養費 なし

証人佐々木信一は、原告が退院後自宅でリハビリテーションを続け、毎月二週間位さくら苑でリハビリテーションを行っている旨供述するが、症状固定後の治療行為であって医学的な必要性が明らかでない上、通院の時期や支出額も証拠上不明であるから、これを損害として認めることはできない。

(二) 居住家屋増築費 九三万八八五九円

証拠(甲七ないし九、証人佐々木信一)によれば、便所への移動等生活に必要な動作を容易にする目的で代金額九三八万八五九六円による工事請負契約を締結して家屋を増築し、既に五〇〇万円の支払いをし、完成時に残額の四三八万八五九六円を支払うことになっていることが認められる。

しかし、前記認定のとおり、原告は最低限の日常生活は一人ですることが可能であり、また、工事明細をみても、原告の後遺障害との関連性が明らかにないか又は疑わしい項目が多々見受けられる。もっとも、原告が歩行機能において相当の後遺障害を負っていることからすれば、手摺りの設置や段差の解消等による転倒防止の措置は必要というべきであるから、原告の後遺障害の程度と工事明細の内容その他一切の事情を斟酌して請負代金額の一割に相当する九三万八八五九円の限度において本件交通事故と相当因果関係のある損害と認められる。

(三) 介護用ベッド代 なし

証人佐々木信一の証言によれば、原告は本件交通事故により足を複雑骨折したため立ち上がる動作が困難であること、ベッドを介護用のものに交換したことが認められる。しかし、前記認定のとおり、原告は一人で日常生活の基本的な動作をすることが可能であることからすれば、介護用ベッドの購入の必要性が立証されているとはいえず、更には、原告が実際に介護用ベッドを購入した旨の領収証類もなく、原告の主張する介護用ベッド代を損害として認めることはできない。

4  休業損害 五五万四三九七円

(一) 休業期間 六五三日

前記認定のとおり症状固定日は平成九年七月二三日であり、本件交通事故日の翌日(事故日の就労は終わっていたものと認められる)である平成七年一〇月一〇日から症状固定日の平成九年七月二三日までの六五三日間就労が不可能だったことは明らかである。

(二) 原告の事故前の収入 年収三一万円

(1) 証拠(甲一七)によれば、岡山県児島郡灘崎町長の発行した所得証明書に基づく原告の平成六年分の所得は事業所得の三一万円であり、他に年金収入が五五万四四四八円あったことが認められる。

(2) 一方、証拠(甲一〇、一一、一六、一八、一九の1ないし12、二〇の1ないし12、乙一六の7、証人佐々木信一)によれば、原告は事故前は明治乳業株式会社と特約を結んで牛乳販売店を経営していたほか、クリーニング及び宅急便の取次業務を行っており、本件交通事故による後遺障害のために平成七年一一月末に廃業したことが認められるところ、右各証拠中には、所得証明書記載の所得より収入が多かったともみられる内容が含まれているので以下検討する。

まず、明治乳業株式会社の請求明細書(甲二〇の1ないし12)には平成六年一一月から平成七年一〇月分までの仕入れの品名、数量及び単価が記載されており、原告の経営していた牛乳販売店の売上集計表(甲一九の1ないし12)には同期間の売上げが記載されているところ、品名及び数量がほぼ同一となっていることから、販売価格と仕入価格の差額から粗利益を算定することが可能であるかのようである。

しかし、右売上集計表は原告の娘婿である佐々木信一の作成であるところ、原資料となるべき帳簿類が提出されていない上、同人は、牛乳等の配達用の自動車の運転は原告の次女が行っており、原告が扶養家族控除の範囲内で報酬を渡していたと供述しているが、報酬の額を示す客観的な証拠もなく、原告の経営実態が証拠上不明確といわざるをえない。

一方、前記納税証明書は、帳簿類に基づく納税申告の結果であるから、税務当局においては、本件訴訟において提出された各資料に基づき、また、クリーニングや宅急便の取次業務による収入を考慮した上で原告の所得金額を年額三一万円と判断したものと考えるべきであり(なお、納税証明書と請求明細書・売上集計表には若干の時期のずれがみられるが、その間に原告の経営状態ひいては収入に大きな変化があったとみられるような証拠はない)、その性質上、信頼性があるというべきである。そして、原告は独居していたのであるから、主婦労働により同居家族の就労を間接的に援助して有形無形の経済的利益を産み出したということも観念できず、逸失利益の算定において賃金センサスを使用することも相当でない。

結局のところ、原告の年収が納税証明書の三一万円を超えると認めるに足りる証拠はない。

(三) 以上によれば、原告の休業損害は、左記のとおり算定される。

計算式 三一万(円)÷三六五(日)×六五三(日)=五五万四六〇二(円)(一円未満切り捨て)

5  逸失利益 一三四万二一一四円

(一) 後遺障害の程度

前記認定のとおり、原告は、本件交通事故以前は痴呆症状がなかったが、本件交通事故により痴呆症状が生じ、一人で基本的な日常生活をすることは辛うじて可能であるものの、就労不可能な状態になっただけでなく随時介護を要する状態にあり、労働能力を一〇〇パーセント喪失したものと認められる。

(二) 労働能力喪失の期間

原告は症状固定時満七七歳であったから、平成七年簡易生命表によれば平均余命一一・四五年までの二分の一である五・七二年にわたり労働能力を喪失したものというべきである。

(三) そして、逸失利益は将来の給付の訴えにかかるものであるから中間利息を控除する必要があり、年収に五年のライプニッツ係数四・三二九四を乗じた額が逸失利益の現価となる。そうすると、原告の逸失利益は、左記のとおり算定される。

計算式 三一万(円)×四・三二九四=一三四万二一一四(円)

6  入通院慰藉料 二六〇万円

前記認定にかかる原告の入院期間(二五七日)や治療内容等によれば、原告が入通院等の治療を受けざるを得なかったことによって被った精神的苦痛を慰藉するには二六〇万円をもって相当と認める。

7  後遺症慰謝料 一〇〇〇万円

原告の後遺症の程度が就労は不可能であるが、記銘力障害及び抽象能力の障害にとどまり、最低限度の日常生活は一人で行うことが可能であるだけでなく他人との会話や新聞を読むことも可能であり、部分的介護で足りると考えられること、原告の事故時の年齢その他一切の事情を勘案すれば、後遺症慰藉料は一〇〇〇万円をもって相当と認める。

8  右合計額は、一五七九万三七七〇円である。

二  被告岡田加代子の損害

1  治療費 三万九四二〇円

証拠(乙三、四、五の1ないし7、一二、被告岡田加代子)によれば、被告岡田加代子は、本件交通事故により頸部及び左肩捻挫の傷害を負い、平成七年一〇月一一日から平成八年四月二六日までの一九九日間(実通院日数一一八日間)医療法人松和会松田病院に通院して治療を受け、同病院に合計三万九四二〇円を支払ったことが認められる。

2  通院費 九万〇八六〇円

証拠(乙六、被告岡田加代子)によれば、被告岡田加代子は、右通院治療を受ける際に交通費として計九万〇八六〇円を支出したことが認められ、その全額が本件交通事故と相当因果関係のある損害と認められる。

3  休業損害 一〇万六二六五円

証拠(乙七、八、九の1及び2、被告岡田加代子)によれば、被告岡田加代子は、事故時サンエス・コート株式会社において芯貼りプレスの仕事をしていたが、本件交通事故により欠勤せざるをえない期間が生じ、減給分九万五三六二円、賞与減額分一万〇九〇三円の合計一〇万六二六五円の損害を被ったことが認められる。

4  通院等慰藉料 八五万円

被告岡田加代子の受けた傷害の程度及び通院期間等に鑑みれば、慰藉料は八五万円が相当と認められる。なお、証拠(乙一〇、一二、被告岡田加代子)によれば、被告岡田加代子は、本件交通事故後、妊娠三箇月で胎児が死亡したため、平成八年二月一〇日に子宮内容除去術を受けたことが認められるが、右事実が本件交通事故と相当因果関係があると認めるに足りる証拠はないから、これを慰藉料の算定において斟酌することは相当でない。

5  右1ないし4の合計額は一〇八万六五四五円である。

三  過失相殺

1  証拠(乙一、被告岡田加代子)によれば、以下の事実が認められる。

(一)(1) 被告車両の走行車線は、概ね南北方向に伸び、上下各二車線で交差点直前で右折専用車線が一つ増えて上下各三車線となっている交通量の多い幹線道路(国道三〇号)で制限時速は五〇キロメートルである。

(2) 原告車両の走行車線は、概ね東西に伸び、幅員三・〇五メートルで左右に幅員各一・五メートルの路側帯のある町道である。

(二) 原告車両は自動二輪車であり、被告車両は普通乗用自動車(トヨタクレスタ)である。

(三) 事故現場は信号機の設置された交差点であり、原告車両の走行車線の対向信号は赤点滅を示し、道路上に「止マレ」との表示があり、一時停止標識も設置されていた。被告車両の走行車線の対向信号は黄点滅を示していた。原告車両の走行車線の停止線から事故現場までの距離は約二二メートルである。原告車両からの左方の見通し、被告車両から右方の見通しはともに悪かった。

(四) 被告車両は、時速約五〇キロメートルで第二車線を直進し、速度を緩めずに事故現場の交差点内に進入した。原告車両は、前照灯を点灯させ、交差点直前で一時停止してから交差点に進入した。

(五) 本件交通事故により、被告車両は前部バンパーボンネット、フロントガラス等が小破し、原告車両は衝突後西方に一五・三メートル跳ね飛ばされて停止し、風防(左)、左リヤーホーク等が小破した。

右認定に反する被告岡田加代子の供述部分、特に原告車両の無灯火、一時停止義務違反の点は採用することができない。

2  原告車両の進路は事故現場の交差点の直前において一時停止の規制がされていたことからすれば、原則として被告車両が優先して走行することができ、原告により重い注意義務が課されていたところ、原告車両は一時停止してから交差点に進入して一応の安全措置をとったと評価することができるが、被告車両の走行車線が交通量の多い幹線道路であり、停止線から交差点を通過するまでの間に相当の距離があったことからすれば、単に停止線において一時停止をしただけでは足りず、交差点通過中も常に左右の安全を十分に確認し、必要があれば再度一時停止するなどして安全運転に努めるべき義務があり、原告が右義務を怠ったことが本件交通事故の発生に大きく起因しているというべきであるから、原告には著しい過失があったといわざるをえない。一方、被告岡田加代子は対面信号が黄点滅を示していたにせよ、本件の具体的状況下においては、原告車両が交差点半ばまで進入していたことに気付くのは可能であり、また、原告車両が自動二輪車であることからすれば、自車両が原則として優先的に走行することができることに固執せず、徐行ないし停止措置をとるなどして危険を回避する義務があったということができる。

そうすると、原告と被告らとの過失割合は六対四が相当と認められる。

3  過失相殺後の損害は左記のとおり算定される。

(一) 原告

計算式 一五七九万三七七〇(円)×〇・四=六三一万七五〇八(円)

(二) 被告岡田加代子

計算式 一〇八万六五四五(円)×〇・六=六五万一九二七(円)

四  損害の填補

弁論の全趣旨によれば、被告岡田加代子が一〇〇万円の損害の填補を受けたことが認められるから、同人の損害は全て填補されていることに帰する。

五  弁護士費用

原告が本件訴訟の提起追行を弁護士近藤昭に委任したことは当裁判所に顕著であるところ、事案の内容、訴訟の経過、原告の損害額等によれば、本件交通事故と相当因果関係のある弁護士費用は六〇万円をもって相当と認める。

六  結論

よって、原告の請求は、被告らに対し連帯して六九一万七五〇八円及びこれに対する本件交通事故の日の後である平成七年一〇月一〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから認容し、その余の請求は理由がないから棄却し、被告岡田加代子の反訴請求は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条、六四条、六五条を、仮執行の宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 酒井良介)

交通事故現場見取図

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